koko325の建設通信

建設業界を広めたい

【図解】AHU(エアハン)とは?空調の心臓部の仕組み・構成要素と役割をプロが徹底解説

 

この記事のポイント

この記事では、大規模な建物の空調を支えるAHU(エアハンドリングユニット)について、その基本的な仕組みから5つの主要な構成要素、そして現場で重要となる施工管理・メンテナンスのポイントまで、長年の経験を持つ専門家が分かりやすく解説します。


オフィスビルや商業施設、病院といった大規模な建物で、私たちが一年中快適に過ごせるのは、空調システムが陰で働き続けているからです。そのシステムの中で、もし熱源設備(チラーやボイラー)が「心臓」ならば、今回ご紹介するAHU(エアハンドリングユニット)、通称「エアハン」は、新鮮で清浄な空気を建物全体に送り届ける「肺」と言える、極めて重要な役割を担っています。

しかし、その重要性にもかかわらず、「エアハンがどのような仕組みで動いているのか」「何から構成されているのか」を正確に理解している方は意外と少ないかもしれません。この記事では、空調設備のプロとして長年現場に携わってきた視点から、AHUの基本を徹底的に解き明かします。

AHU(エアハンドリングユニット)とは?空調システムにおける「肺」の役割

AHU(Air Handling Unit)とは、その名の通り「空気(Air)」を様々なプロセスで「処理(Handling)」し、最適な状態にして空間に供給するための装置です。

具体的には、屋外から取り入れた新鮮な空気(外気)と、室内から戻ってきた空気(還気)を混ぜ合わせ、フィルターでホコリなどを取り除き、コイルで夏は冷たく・冬は暖かく温度を調整し、時には加湿器で湿度を加え、最終的に大きなファンでダクトを通して各フロアや部屋へと空気を送り出します。この一連の空気調和プロセスを一台で集約して行うのがAHUの役割です。

よく似た機器にFCU(ファンコイルユニット)がありますが、AHUが建物全体の空調を担う大規模なものであるのに対し、FCUは各部屋に設置される小規模な空調機という点で大きく異なります。

【図解】AHUの基本的な仕組みと空気の流れ

AHUの内部では、空気が決められた順序で処理されていきます。以下の図は、その典型的な空気の流れを示したものです。

  1. 空気の混合: 外部から取り入れた「外気」と、室内から戻ってきた「還気」が混合箱(ミキシングボックス)で混ざり合います。
  2. 除塵: 混合された空気は「フィルター」を通過し、チリやホコリ、花粉などが取り除かれます。
  3. 温度調整: 次に「冷却・加熱コイル」を通過する際に、熱源から送られてきた冷水や温水と熱交換し、設定された温度に調整されます。
  4. 湿度調整: 特に冬の乾燥期には、「加湿器」によって適切な湿度が加えられます。
  5. 送風: 最後に、清浄で快適な温度・湿度に調整された空気が「送風機(ファン)」によって強力に送り出され、ダクト網を通じて建物内の各エリアに供給されます。

この一連の流れがスムーズに行われることで、建物全体の快適な環境が維持されているのです。

AHUを構成する5つの主要コンポーネントと機能

それでは、先ほどの空気の流れに沿って、AHUを構成する主要な5つのコンポーネントの機能と、私たちが現場で特に注意して見ている管理ポイントを解説します。

① 混合箱(ミキシングボックス):外気と還気を最適ブレンド

機能: 還気と外気を混合させる最初のセクションです。内部にあるダンパー(風量を調整する板)の開度を調整することで、省エネを図りつつ必要な換気量を確保します。例えば、中間期などでは外気を多く取り入れる(外気冷房)ことで、冷凍機の運転を抑制できます。

管理ポイント: ダンパーの開閉がスムーズに行われるか、連動機構にガタつきや不具合がないかは非常に重要です。設計通りの風量バランスが取れていないと、省エネ性能が著しく低下したり、室内の気圧が乱れたりする原因となります。

② フィルター:きれいな空気を届ける“マスク”

機能: 空気中の塵や埃、花粉などを物理的に捕集し、空気を浄化する重要な部分です。一般的には、大きなゴミを取る「プレフィルター」と、より細かい粒子を捕集する「中性能フィルター」が組み合わせて使用されます。クリーンルームなどでは、さらに高性能な「HEPAフィルター」が用いられます。


管理ポイント
: フィルターはAHUの“マスク”です。目詰まりは最も警戒すべきトラブルの一つで、風量の低下や消費電力の増大に直結します。差圧計の数値を定期的に確認し、清掃や交換の計画を確実に実行することが、空調品質とランニングコストを維持する上で不可欠です。

③ 冷却・加熱コイル:快適な温度を作り出す熱交換器

機能: 熱源設備から送られてくる冷水や温水、蒸気などを内部に通し、そこを通過する空気と熱を交換させることで、空気を冷やしたり温めたりします。細かいフィンが多数取り付けられており、空気と接触する面積を最大化する工夫がされています。

管理ポイント: このフィンに埃が付着すると、熱交換の効率が劇的に悪化します。これも消費電力の増大に繋がるため、定期的な高圧洗浄が欠かせません。また、冬場に起こりうるコイルの凍結は、破裂による大規模な漏水事故に繋がるため、凍結防止制御が正しく機能しているかの確認も極めて重要です。

④ 加湿器:最適な湿度を保つ“うるおい”機能

機能: 特に乾燥する冬場に、空気に湿度を与えて快適性を保ちます。代表的な方式には、蒸気を直接吹き込む「蒸気式」、水を含んだエレメントに風を通す「気化式」、水を霧状に噴霧する「水スプレー式」などがあります。

管理ポイント: 水を扱うため、衛生管理が最も重要になるセクションです。特に、レジオネラ属菌などの細菌が繁殖しないよう、定期的な清掃と水質管理が法律でも定められています。スケールの付着は加湿能力の低下や故障の原因となるため、こちらも注意深く観察する必要があります。

⑤ 送風機(ファン):空気を送り出す“エンジン”

機能: これまでの工程で調整された空気を、建物内の隅々まで送り届けるための強力なファンです。一般的には、多くの風量を効率よく生み出せる遠心式の「シロッコファン」や「ターボファン」が使用されます。

管理ポイント: ファンの心臓部はモーターです。運転中の電流値や軸受の温度を監視し、異常な振動や異音が発生していないかを確認します。ベルトで駆動するタイプの場合は、ベルトの張り具合や劣化状態のチェックを怠ると、ベルトが切れて空調が完全停止する事態を招きかねません。

【現場のプロが教える】AHU施工管理・メンテナンスの3つの重要ポイント

設計図通りに機器を設置するだけでは、良い空調設備は作れません。将来の運用まで見据えた「配慮」が、その建物の価値を大きく左右します。ここでは、特に重要な3つのポイントをお伝えします。

1. メンテナンススペースの確保

これは最も重要な項目かもしれません。フィルターの交換、コイルの洗浄、ファンの修理など、AHUは定期的なメンテナンスが必須です。しかし、設計段階や施工段階でこの視点が欠けていると、機器の周りに十分なスペースがなく、「フィルターを引き出す隙間がない」「洗浄作業ができない」といった事態に陥ります。メンテナンス性の悪さは、将来的なコスト増に直結することを肝に銘じるべきです。

2. ドレン配管の確実な施工

夏場、冷却コイルでは大量の結露水(ドレン)が発生します。この水をスムーズに排出するのがドレン配管の役目です。排水のための適切な勾配が確保されているか、そして空気が逆流したり害虫が侵入したりするのを防ぐ「トラップ」が正しく設置されているかは、必ず確認します。施工が不適切だと、水が溢れて水漏れ事故を起こしたり、悪臭の原因になったりします。

3. 振動・騒音対策

AHUは大きなファンとモーターを持つため、振動と騒音の発生源となります。機器の基礎(架台)に防振ゴムやスプリングを設置するのはもちろんですが、その選定や設置が適切でなければ効果は半減します。また、ダクトと本体の接続部分に「キャンバス継手」と呼ばれる布製の継手を使い、振動がダクトに伝わらないようにすることも基本中の基本です。

まとめ:AHUの理解が快適なビル環境と省エネの第一歩

今回は、空調システムの要であるAHU(エアハンドリングユニット)について、その役割、仕組み、そして主要な構成要素を解説しました。

  • AHUは、外気と還気を混合・除塵・温湿度調整し、建物全体に供給する「空気調和機」である。
  • 混合箱、フィルター、コイル、加湿器、送風機の5要素が連携して機能している。
  • 各部品の性能を最大限に引き出すには、清掃や点検といった定期的なメンテナンスが不可欠。
  • 将来のメンテナンス性まで考慮した施工管理が、建物のライフサイクルコストを最適化する。

一見するとただの大きな箱に見えるかもしれませんが、その内部では、快適な環境を創り出すための高度な機能が詰まっています。この記事が、建物の空調システムをより深く理解する一助となれば幸いです。