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【解説】熱源システムのコスト削減|運転最適化と熱交換器の効率維持術

 

工場の電気代やガス代が高い…とお悩みの設備担当者様へ。熱源システムのコストは、運転最適化と熱交換器の効率維持で大幅に削減可能です。本記事では、20年の経験を持つ専門家が、明日から実践できる具体的な手法を分かりやすく解説します。

冷凍機やボイラーといった熱源機器は、工場や大規模施設の心臓部であり、エネルギー消費全体の大部分を占める重要な設備です。これらの機器の運転効率が少し落ちるだけで、ランニングコストは驚くほど跳ね上がります。しかし、逆に言えば、ここにこそ大きなコスト削減のチャンスが眠っているのです。

「専門家がいないから…」「どこから手をつければいいか分からない…」そんな声もよく耳にしますが、ご安心ください。この記事では、熱源システムの運用段階におけるコスト削減、特に「運転の最適化」「熱交換器の効率維持」という2つの重要な柱に焦点を当て、現場で本当に役立つ具体的なノウハウを解説します。

1. 運転の最適化:見えない無駄をなくす技術

熱源システムは、ただ動いていれば良いというものではありません。建物の負荷(必要な熱量)に対して、いかに効率よく、無駄なく熱を供給するかがコスト削減の鍵となります。

複数台運転の最適化(台数制御)

多くの大規模施設では、負荷変動に対応するため、複数の熱源機器(例: 冷凍機2台、ポンプ2台)が設置されています。ここで陥りがちなのが、「大は小を兼ねる」という考え方で、負荷が小さい時間帯でも大型機1台を動かし続けてしまうケースです。

考え方: 大型機1台を低負荷で運転するよりも、小型機1台を定格に近い高効率な領域で運転する方が、システム全体の効率は格段に高くなる場合があります。これは「部分負荷効率」の考え方に基づきます。

具体的な管理手法:

  • 負荷パターンの把握: まずは敵を知ることから。季節や時間帯ごとの建物の熱負荷パターンを、BEMS(ビルエネルギー管理システム)などのデータを活用して正確に分析・把握します。いつ、どれくらいの熱が必要なのかを「見える化」することが第一歩です。 
  • 台数制御プログラムの検証: 把握した負荷パターンに基づき、どの負荷領域で何台の機器を運転させるのが最も効率的か、シミュレーションや実測に基づいて自動制御プログラムを最適化します。  近年の高効率なインバータ機の場合、低負荷域でも高効率を維持できるため、あえて複数台を低負荷で運転する方が効率的なケースもあります。

設定温度の最適化

「たった1℃」と侮ってはいけません。現場では、この1℃の見直しが年間で数百万円のコスト削減に繋がることも珍しくありません。

具体的な管理手法:

  • 冷水出口温度の緩和: 夏場の冷房時、冷凍機の冷水出口温度を少し高め(例: 7℃ → 8℃)に設定することで、冷凍機の圧縮機の負荷が下がり、消費電力を削減できます。 もちろん、室内の快適性を損なわない範囲での調整が前提です。
  • 冷却水入口温度の低減: 冬場や中間期など、外気温度が低い時期はチャンスです。冷却塔のファンを積極的に運転させて、冷凍機に入る冷却水の温度をできるだけ下げることで、冷凍機の効率(COP:成績係数)が向上し、消費電力が削減されます。 

2. 熱交換器の効率維持:性能低下の根源「汚れ」との戦い

熱源機器の性能は、熱交換器の性能そのものと言っても過言ではありません。この熱交換器の伝熱面に汚れ(スケール、スライム、錆など)が付着すると、熱の伝わりが妨げられ、効率は著しく低下します。これは、気づかぬうちにお金を捨てているのと同じ状態です。

スケール・スライムの除去

特に冷却水系で問題となるのが、水に含まれるカルシウムやシリカなどのミネラル分が固まった「スケール」です。

影響: 熱交換器の伝熱面にわずか0.2mmのスケールが付着するだけで、冷却能力が約5%低下し、0.8mmでは約30%も低下するというデータもあります。 これは、同じ熱量を供給するためにより多くの燃料や電気が必要になることを意味します。

具体的な管理手法:

  • 定期的な水質管理: 根本対策として、冷却水や冷温水、ボイラー水の水質を定期的に分析し、スケール防止剤やスライムコントロール剤を適切に添加することが不可欠です。
  • 熱交換器の洗浄: どんなに水質管理をしても、汚れの付着をゼロにすることは困難です。定期的に熱交換器のチューブを物理的に洗浄(通称:細管清掃)し、付着したスケールやスライムを強制的に除去します。 

燃焼管理(ボイラー)

ボイラーにおいては、燃料の燃えカスである煤(スス)が熱効率低下の大きな原因となります。


影響
: ボイラーの燃焼室や煙管に煤が付着すると、熱の伝わりが悪くなり、本来吸収されるべき熱が排ガスとして捨てられてしまいます。これにより排ガス温度が上昇し、熱効率が大きく低下します。

具体的な管理手法:

  • 空気比の最適化: 燃焼には適切な量の空気が必要です。空気が多すぎると排ガス量が増えて熱損失が大きくなり、少なすぎると不完全燃焼を起こして煤が発生します。 排ガス中の酸素濃度を測定し、燃料の種類や負荷に応じて常に最適な空気比に保つことが重要です。
  • 定期的な内部清掃(煤掃き): 定期的にボイラーの燃焼室や煙管内部の煤を清掃し、伝熱面をクリーンに保ちます。

3. コスト削減効果の「見える化」が継続の鍵

これらの改善活動は、一度行ったら終わりではありません。効果を継続させ、さらなる改善に繋げるためには、成果を見える化し、関係者全員で共有することが極めて重要です。

  • エネルギー消費量の記録: 電気、ガス、水道の使用量を継続的に記録し、グラフ化して誰の目にも明らかな形で変化を追跡します。前年同月比や、改善策実施前後での比較が有効です。
  • - 効率指標のモニタリング: BEMSを活用し、冷凍機のCOP(成績係数)やボイラーの熱効率といった効率指標を監視します。 目標値を設定し、日々の運用でその達成度を確認することで、担当者のモチベーション維持にも繋がります。

まとめ:地道な保守管理こそが最大のコスト削減策

熱源システムのコスト削減に、魔法のような特効薬はありません。しかし、今回ご紹介したように、日々の負荷状況を正しく把握し、運転設定を最適化し、そして最も重要な「熱交換器の清掃と水質管理」を徹底すること。この地道な保守管理の積み重ねが、長期的に見て最も効果的で、かつ確実なコスト削減策となります。

まずは自社の熱源システムがどのような状態で運転されているのか、現状を把握することから始めてみてはいかがでしょうか。そこから、必ず改善のヒントが見つかるはずです。