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【解説】冷却塔の水質管理ガイド|スケール・腐食・スライムを防ぎコストを削減する秘訣

 

冷却塔(クーリングタワー)の性能は、水質管理で決まります。この記事では、冷却塔の二大方式「開放式」と「密閉式」の比較から、永遠の課題である「スケール」「腐食」「スライム」という3大障害の具体的な対策まで、設備管理のプロが分かりやすく解説。適切な水質管理が、いかにして省エネとコスト削減に直結するのか、その秘訣を明らかにします。

冷却塔

「冷却塔の管理、業者任せになっていませんか?」多くの設備管理者様が日々の業務に追われる中で、冷却塔の細かな水質データまで目を配るのは難しいかもしれません。しかし、そのわずかな見過ごしが、将来的に大きなエネルギー損失や高額な修繕費に繋がることを、私は長年の経験から見てきました。

水冷式冷凍機を使用するシステムにおいて、冷却塔は「心臓部」とも言える冷凍機の熱を大気へ逃がす重要な役割を担います。この冷却塔の効率が、そのまま冷凍機の消費電力、ひいては施設全体の運営コストに直結するのです。この記事では、長年の設備管理経験に基づき、冷却塔管理の核心である「水質」に焦点を当て、持続可能な設備運用を実現するための知識を余すところなくお伝えします。

【徹底比較】開放式と密閉式冷却塔のメリット・デメリット

冷却塔には大きく分けて「開放式」と「密閉式」の2種類があり、それぞれに長所と短所が存在します。自社の設備や環境に最適な方式を理解することが、適切な管理の第一歩です。

開放式冷却塔:高い冷却効率とシンプルな構造

冷却水を塔上部から充填材に散水し、ファンで送り込んだ外気と直接触れさせることで、気化熱を利用して水を冷却する、最も一般的なタイプです。

  • メリット: 構造がシンプルなため、導入コストが比較的安価です。また、水を直接蒸発させるため冷却効率が高いという特長があります。
  • デメリット: 冷却水が外気に直接触れるため、大気中のホコリや汚染物質が混入しやすく、水質が悪化しやすいです。水の蒸発に伴い、水中のミネラル分が濃縮され、後述するスケール障害のリスクが高まります。衛生管理を怠ると、レジオネラ属菌の温床となる可能性もあります。

密閉式冷却塔:水質維持の容易さと安定稼働

冷却水は密閉された配管内を循環し、その配管の外部に散水された水(散水水)と外気によって間接的に冷却される方式です。

  • メリット: 重要な機器を循環する冷却水が密閉されているため、大気と接触せず清浄に保たれます。 これにより、冷凍機内部などでのスケール障害のリスクを大幅に低減でき、設備の安定稼働に貢献します。
  • デメリット: 構造が複雑なため、開放式に比べて導入コストが高くなる傾向があります。 また、同じ能力であれば設置面積も大きくなりがちです。間接冷却のため、冷却効率は開放式に若干劣ります。

どちらを選ぶべきか?判断のポイント

初期コストを重視し、徹底した水質管理が実施できる体制があれば「開放式」が選択肢となります。一方で、長期的な安定稼働やメンテナンス負荷の軽減、何よりも冷却水が循環する先の機器(冷凍機など)の保全を最優先するなら「密閉式」が有力です。 特に、水質の影響を受けやすい高性能な設備を導入している場合は、密閉式のメリットが大きくなります。

冷却塔トラブルの根源!3大水質障害とその対策

冷却塔で発生するトラブルのほとんどは「水」に起因します。ここでは、特に注意すべき3つの障害「スケール」「腐食」「スライム」について、その原因と具体的な対策を解説します。

障害①:スケール(水垢)- 熱効率低下の最大要因

スケールとは?

冷却水が蒸発する際に、水に溶けていたカルシウムやシリカといったミネラル分が濃縮され、配管や熱交換器の表面に硬く付着したものです。身近な例では、電気ポットの底に付く白い固まりと同じ現象です。

  • 影響: スケールは熱を伝えにくいため、わずか0.6mmのスケールが付着しただけで、熱交換効率が30%以上も低下し、消費電力が大幅に増加するというデータもあります。 放置すれば配管を詰まらせ、設備の停止にも繋がります。
  • 対策:
    1. ブローダウン管理: 濃縮された冷却水を意図的に排出し、新しい水を補給することで、水中のミネラル濃度を一定の管理値内に保ちます。
    2. 水処理薬品(スケール防止剤)の活用: スケール成分が結晶として析出しにくくなる薬品を添加します。 これにより、ブローダウンの頻度を抑え、節水効果も期待できます。

障害②:腐食 - 設備の寿命を縮める静かな敵

腐食とは?

水中の溶存酸素や、大気中から溶け込む亜硫酸ガスなどの影響で、配管や機器の金属が化学反応を起こし、錆びていく現象です。設備の「ガン」とも言える存在です。

  • 影響: 配管に穴が開いて漏水を引き起こしたり、機器の強度を低下させたりして、設備の寿命を著しく縮めます。腐食によって剥がれ落ちた錆が、別の場所で詰まりの原因になることもあります。
  • 対策:
    1. 防食剤の活用: 金属の表面に保護皮膜を形成する薬品を添加し、腐食の原因となる物質が直接金属に触れるのを防ぎます。
    2. 適切なpH管理: 冷却水のpH値を適切な範囲(日本冷凍空調工業会ガイドラインでは6.5~8.2)に保つことが、腐食を抑制する上で重要です。

障害③:スライム(微生物)- レジオネラ菌の温床にも

スライムとは?

藻類や細菌、カビといった微生物が繁殖し、それらが分泌する粘性物質と結びついて形成される、ぬるぬるした集合体です。冷却塔内は栄養、温度、日光といった微生物の繁殖に適した条件が揃いやすい環境です。

  • 影響: スライムはスケール以上に熱伝導を阻害し、熱交換効率を大きく低下させます。また、配管を閉塞させるだけでなく、スライムの下で局所的な腐食(微生物腐食)が進行する原因にもなります。
  • 衛生上のリスク: 最も警戒すべきは、スライムがレジオネラ属菌の格好の住処となることです。レジオネラ属菌は、冷却塔から飛散するエアロゾル(細かい水の粒子)を人が吸い込むことで、重篤な肺炎を引き起こす可能性があります。
  • 対策:
    1. 殺菌剤・スライムコントロール剤の添加: 微生物の繁殖を抑制する薬品を定期的に添加します。
    2. 定期的な清掃: 塔内部、特に日光が当たりやすい場所や水の淀む場所は、物理的に清掃してスライムを除去することが不可欠です。建築物衛生法では、冷却塔の清掃を1年以内ごとに1回定期に行うことと定められています。

正しい水質管理がもたらす3つのコスト削減効果

「水質管理はコストがかかる」と思われがちですが、それは短期的な視点です。長期的に見れば、適切な水質管理は「コスト」ではなく、将来の損失を防ぎ、利益を生み出す「投資」と言えます。

① エネルギーコストの削減

最も直接的で大きな効果です。スケールやスライムの付着を防ぎ、熱交換器の性能を高く維持することで、冷凍機は余分なエネルギーを使わずに済みます。 水質管理によって冷凍機の効率が10%改善すれば、それに伴う電力消費量も削減され、年間の電気代に大きな差となって現れます。

② 薬品・水コストの最適化

定期的な水質分析に基づいた管理を行うことで、過剰なブローダウンによる水の無駄遣いや、不必要な薬品の投入を防ぐことができます。現状を正確に把握し、必要な分だけを的確に投入することが、結果的にランニングコストの最適化に繋がります。

③ 修繕・更新コストの削減

腐食やスケールによるダメージから設備を守ることは、高価な熱交換器や配管、ひいては冷凍機本体の寿命を延ばすことに直結します。目先のメンテナンスコストを惜しんだ結果、数年後には数百万、数千万円単位の設備更新が必要になるケースも少なくありません。計画的な保全は、長期的なライフサイクルコストを大幅に削減します。

まとめ:最適な冷却塔管理で、持続可能な設備運用を

冷却塔は、ただ熱を大気に捨てるだけの単純な装置ではありません。そのコンディションは、施設の快適性、生産性、そして経営そのものを左右する重要な要素です。特に、開放式・密閉式を問わず、その性能を最大限に引き出す鍵は「水質管理」にあります。

スケール、腐食、スライムという3大障害をコントロールすることは、単にトラブルを防ぐだけでなく、日々のエネルギーコストを削減し、高価な設備資産を長期にわたって守る、最も効果的な手段です。水質管理は専門的な知識を要する分野ですが、信頼できるプロフェッショナルと連携し、自社の設備に合った計画的な管理を行うことこそ、未来を見据えた賢明な設備投資と言えるでしょう。