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【電気工事編】令和7年版 公共工事標準仕様書|技術者が押さえるべき10の重要変更点

 

【電気工事編】令和7年版 公共工事標準仕様書|技術者が押さえるべき10の重要変更点


はじめに:2025年から電気設備工事の「当たり前」が変わる

3年ごとに改定される公共工事羅針盤、「公共工事標準仕様書」。令和7年(2025年)版が公開され、電気設備工事の世界にも大きな変化の波が訪れようとしています。 [2, 8] 私も長年この業界に身を置いていますが、今回の改定は単なるマイナーチェンジではありません。特に、環境配慮、省エネルギー、そしてDX(デジタルトランスフォーメーション)という現代社会の大きな潮流が、仕様書の隅々にまで具体的に反映された、まさに「新時代のスタンダード」を示すものだと感じています。

この変化に対応できるかどうかが、これからの技術者の価値を大きく左右するでしょう。本稿では、多岐にわたる変更点の中から、特に我々技術者の実務に直接影響する10の重要ポイントを厳選し、その背景と対策を分かりやすく解説していきます。

【総まとめ】令和7年版 電気設備工事標準仕様書の10大変更点一覧

まずは今回の主な変更点を一覧で確認しましょう。特に重要な3つのポイントについては、後ほど詳しく解説します。

  • 【最重要】環境配慮型「EM電線/ケーブル」が標準に
  • 【省エネ】LED照明の高効率化
  • 【DX推進】情報通信設備の仕様強化とICT活用の義務化
  • 全体構成の見直し
  • 盤類の仕様統一による品質確保
  • 施工・検査手順の明確化
  • 改修工事への対応力向上
  • 書類・記録の整備義務(電子化の推進)
  • 安全指針の最新化
  • 細かな表現の修正

【最重要解説】特に影響が大きい3つの変更点

今回の改定の中でも、特にインパクトが大きく、すべての電気技術者が最優先で理解すべき3つのテーマを深掘りします。

1. 環境配慮への大転換:「EM電線/ケーブル」の標準化

今回の改定における最大の目玉であり、最も実務的なインパクトが大きいのが、EM(エコケーブル)電線・ケーブルの標準化です。これまで広く使われてきた安価なビニル(CV・VVF)ケーブルは原則として仕様から削除され、今後は環境配慮型製品がスタンダードとなります。

EM電線(エコケーブル)とは?
被覆材にハロゲン元素を含まないポリエチレンなどを使用し、燃焼時の有害ガス発生を抑制した電線です。 [12] 火災時の安全性が高く、リサイクルしやすいという特長もあります。

この変更は、脱炭素社会の実現に向けた国の強い意志の表れです。私たち技術者にとっては、以下の点で迅速な対応が求められます。

  • コスト管理:一般的にEM電線はビニル電線より高価なため、積算・見積もりへの影響は避けられません。正確な原価把握が重要になります。
  • 材料選定と在庫管理:これまでの在庫計画を根本から見直す必要があります。特に、特記仕様がない限りビニル電線は使用できなくなるため、誤発注には細心の注意が必要です。
  • 施工上の注意点:EM電線はビニル電線に比べて被覆が硬い、滑りにくいといった特性があるため、施工方法にも若干の工夫が求められる場合があります。

この変更は、公共工事から民間工事へと波及していく可能性が非常に高いです。今のうちからEM電線の扱いに慣れ、知識を深めておくことが不可欠です。

2. 省エネ基準の高度化:「高効率LED照明」の採用必須へ

省エネ法のトップランナー制度に基づき、LED照明器具に求められるエネルギー消費効率(lm/W)の基準値が、より厳しいものになります。 [14, 16] これにより、設計・積算段階で選定できる照明器具の選択肢が、より高効率な製品に絞られることになります。

「ただ明るい」だけでは不十分で、「いかに少ない電力で効率よく明るさを確保できるか」が問われる時代です。最新の製品カタログを常にチェックし、基準値をクリアする高効率な器具を選定する知識が、設計者や積算担当者にはこれまで以上に求められます。

3. DX推進の加速:「情報通信設備」の仕様強化と「ICT活用」の義務化

社会全体のデジタル化を背景に、建築物における情報通信インフラの重要性はますます高まっています。今回の改定では、光ファイバーケーブルをはじめとする情報通信設備の仕様が、最新の技術動向に合わせて強化されました。

さらに注目すべきは、ICT活用の推進です。 [7, 8] これまで努力義務に近かった施工管理記録や完成図書などの電子データでの提出が、より明確に義務化されます。情報共有システム(ASP)の活用や、場合によっては遠隔臨場なども標準的な手法となっていくでしょう。 [7] これからの現場代理人や施工管理技術者には、PCやタブレットを使いこなし、効率的に書類を作成・管理するデジタルスキルが必須となります。

品質と安全性を高める7つの重要変更点

上記3つの大きな変更点に加え、品質・安全性の向上や実務の効率化に繋がる重要な改定も行われています。

4. 全体構成の見直し:より論理的で探しやすく

仕様書全体の章・節の順序が整理され、より直感的で分かりやすい構成になりました。 [3] 必要な情報を素早く見つけられるようになり、発注者と受注者間の解釈のズレを減らす工夫がされています。

5. 品質確保:盤類の仕様統一と性能規定の明確化

分電盤や制御盤など、メーカーごとに仕様が異なりがちだった盤類について、標準的な仕様が統一されました。また、求められる性能が具体的に規定されたことで、品質の均質化と発注者・受注者間の認識齟齬の防止が期待できます。

6. 施工・検査手順の明確化:現場の判断ブレをなくす

具体的な施工方法や検査・試験の手順、判断基準がより詳細に規定されました。これにより、現場担当者の判断のブレが少なくなり、施工品質の安定化に繋がります。

7. 改修工事への対応力向上:現場の実情に合わせた仕様追加

新築工事だけでなく、制約の多い改修工事特有の状況に対応するための仕様が追加されました。 [1] 既存設備の調査や活用、限られた条件下での施工方法などが盛り込まれ、より実情に即した内容となっています。

8. 書類・記録の整備義務:ペーパーレス化への対応

前述のICT活用と関連しますが、提出が求められる各種書類の標準化が進みます。今後はフォーマットに従った効率的な書類作成能力が、技術者の評価に直結するようになるでしょう。

9. 安全指針の最新化:自然災害リスクへの備え

近年の気候変動による自然災害の増加を受け、関連する安全指針への参照が追加されました。また、建設副産物の適正な処理に関する規定も更新され、現場における安全・環境管理への要求レベルはさらに高まっています。

10. 細かな表現の修正:公式の正誤表確認の徹底

全体を通して、用語の統一や表現の細かな修正が行われています。実務で仕様書を参照する際は、思い込みで判断せず、必ず国土交通省の公式サイトで最新版の仕様書と「正誤表」を確認する習慣をつけましょう。 [2, 5]

まとめ:変化を乗りこなす電気技術者が今すぐ準備すべき3つのこと

今回の令和7年版「公共工事標準仕様書」の改定は、私たち電気技術者に新しい時代の到来を告げています。変化をチャンスと捉え、市場価値の高い技術者であり続けるために、今すぐ以下の3つの準備を始めることを強くお勧めします。

  1. 知識のアップデート:特に「EM電線」「高効率LED」「ICT活用」の3分野について、関連メーカーの資料を取り寄せたり、セミナーに参加したりして、最新の知識を貪欲に吸収しましょう。
  2. デジタルスキルの習得:ExcelやCADだけでなく、情報共有システムや施工管理アプリなど、新しいツールを積極的に試す姿勢が重要です。まずは普段の業務から少しずつペーパーレス化を進めてみましょう。
  3. コスト感覚の再構築:材料の単価や新しい工法に必要な手間など、今回の改定に伴うコスト変動を正確に把握し、精度の高い積算・見積もり能力を磨きましょう。

古い常識はもはや通用しません。この新しいスタンダードをいち早く自分のものにし、日々の設計、積算、そして施工管理の現場で実践していくこと。それが、これからの時代を生き抜く電気技術者の必須条件となるでしょう。