大型新築工事の設備長として20年の経験を持つ大手ゼネコンの部長が、現場で戦う技術者の皆さんのために、2025年(令和7年)版「公共工事標準仕様書」改定の要点を読み解きます。

はじめに:変わる常識、現場の技術者が今知るべきこと
2025年(令和7年)4月から適用される新しい公共工事標準仕様書、今回は「機械設備工事編」について、現場目線で解説します。この分野の改定を一言で表すなら、「高効率化」と「省人化」。これは、深刻化する人手不足や脱炭素社会への移行といった、現代の建設業界が直面する大きな課題への明確な回答と言えるでしょう。日々の業務に追われる中で、分厚い仕様書を読み込むのは大変なことです。そこで、実務に特に影響が大きい9つの重要ポイントに絞り、その背景と共に分かりやすく解説していきます。
機械設備工事における9つの主要変更点
今回の改定は広範囲にわたりますが、現場の技術者として、まずは以下の9点を確実に押さえておきましょう。
1. 【省エネ】トップランナーモーターの適用拡大
ポンプや送風機など、様々な建築設備機器に内蔵されるモーターの省エネ基準が、さらに厳しくなります。省エネ性能が極めて高い「トップランナーモーター(IE3相当)」の適用範囲が、より広範囲の機器へと拡大されました。これは、建物全体の消費エネルギーを抜本的に削減しようという国の強い意志の表れです。設備選定の際には、モーターの効率クラスを今まで以上に意識する必要があります。
2. 【省エネ】空調・冷暖房設備の最新化
空気調和設備や冷暖房設備について、最新の省エネ基準や技術動向を反映した仕様へとアップデートされました。高効率な熱源機の採用はもちろん、IoTなどを活用した、より高度なエネルギーマネジメントシステムの導入が標準となってきます。これにより、快適性を損なうことなく、さらなるエネルギー効率の向上が求められます。
3. 【品質・長寿命化】給排水設備の基準明確化
給排水衛生設備工事における配管やバルブ、各種部品の基準が、より明確に規定されました。特に、建物の長寿命化や維持管理のしやすさ(ライフサイクルコストの低減)を考慮した材料選定の重要性が強調されています。目先のコストだけでなく、長期的な視点での提案力が技術者には求められます。
4. 【新技術】エレベーターの回生電力システム採用
今回の改定で特に注目すべき新技術の一つが、エレベーターの回生電力システムです。これは、エレベーターが減速する際に発生する運動エネルギーを電力に変換し(回生)、蓄電して照明などに再利用する仕組みです。これまで捨てられていたエネルギーを有効活用する、脱炭素時代を象徴する改定項目と言えるでしょう。
5. 【省人化】新工法・試験方法の具体化
建設現場の喫緊の課題である人手不足に対応するため、省力化に繋がる新しい工法や試験方法が具体的に仕様書に盛り込まれました。例えば、工場であらかじめ配管ユニットなどを製作する「プレハブ化」や、ウェアラブルカメラなどを活用して遠隔地から検査を行う「遠隔臨場」などがこれにあたります。これらの技術を積極的に活用し、生産性を高めていくことが不可欠です。
6. 【生産性向上】施工管理手順の柔軟化
これまでの画一的な管理手順が見直され、現場の施工実態に応じた、より柔軟で合理的な施工管理が認められるようになります。例えば、情報共有システムを活用した書類提出の効率化などもその一環です。創意工夫によって無駄を省き、生産性を高めることが、これまで以上に評価されるようになります。
7. 【コスト・環境】改修工事の新たな指針
新築工事だけでなく、改修工事に関する規定も充実しました。特に、既存の材料や機器を安全かつ適切に再利用するための新たな指針が設けられた点は重要です。これにより、廃棄物の削減による環境負荷の低減と、コスト削減の両立を目指します。
8. 【必須確認】引用規格(JIS等)の更新
電気工事編と同様に、JIS(日本産業規格)をはじめとする各種規格や法令が最新版に更新されています。設計図書や積算資料を作成する際には、必ず最新の規格番号を確認する習慣をつけてください。古い規格のまま進めてしまうと、手戻りの原因となります。
9. 【要注意】細かな表現の修正(正誤表の確認を)
全体を通して、構成の再整理や小見出しの最適化、句読点・文体の修正など、細かな変更が加えられています。実務で仕様書を参照する際は、必ず国土交通省の公式サイトで公開される最新の「正誤表」と合わせて本編を確認することが重要です。
まとめ:変化を好機に。未来を創る機械設備技術者へ
令和7年版の公共工事標準仕様書(機械設備工事編)は、私たち機械設備技術者に対し、単なる機器の知識だけではなく、エネルギー効率、ライフサイクルコスト、そして労働生産性といった、より経営的で俯瞰的な視点を求めています。仕様書の変更は、覚えることが増えて大変だと感じるかもしれません。しかし、これは自らの技術者としての価値を高める絶好の機会です。この変化をチャンスと捉え、新しい技術や工法を積極的に学び、現場に提案していく姿勢が、これからの技術者には不可欠となるでしょう。