施工計画書と施工図は、建設設備工事の品質・安全・工程・コストを左右する重要書類。作成・管理を徹底し、手戻り防止や効率化に貢献します。
建設設備工事において、施工計画書と施工図は、プロジェクトを円滑に進め、品質を確保するための二大重要書類です。これらは単なる「お役所仕事」の書類ではなく、現場の羅針盤であり、関係者間のコミュニケーションツール、そして万が一の際の責任の所在を明確にする証拠にもなります。
この記事では、若手技術者が押さえておくべき施工計画書と施工図の作成・管理の基本を解説します。
1. 施工計画書:工事のシナリオを具体化する
施工計画書は、「設計図書(設計図+仕様書)で要求されたものを、どのような手順・方法で、いつまでに、どれくらいの品質で作り上げるか」という、工事全体のシナリオを記述したものです。
なぜ施工計画書は重要か?
- 思考の整理: 作成プロセスを通じて、工程、安全、品質に関する問題点を事前に洗い出すことができます。
- 関係者への周知: 発注者や監督職員に工事の進め方を説明し、承認を得るための公式な書類です。
- 現場作業員への指示: 現場の職長や作業員が、安全で効率的に作業を進めるための具体的な指示書となります。
管理手法:押さえるべき主要項目
標準仕様書で定められた項目を網羅しつつ、特に以下の点に注意して作成・管理します。
- 工程計画: 全体のネットワーク工程表を作成し、主要なマイルストーン(機器搬入、耐圧試験、試運転など)を明確にします。建築や他設備業者との取り合いもここに盛り込みます。
- 品質計画: 「何を」「いつ」「誰が」「どのように」管理するのかを具体的に記述します。(例: 「配管の耐圧試験は、配管工事完了後、保温工事開始前に、担当者〇〇の立ち会いの下、1.0MPaで1時間保持して実施する」)
- 安全管理計画: 危険予知(KY)活動、ヒヤリハット報告、使用する重機や工具の管理方法など、具体的な安全活動を計画します。
- 施工要領書: 特定の重要な工事(重量物搬入、耐圧試験、ダクト漏洩試験など)については、さらに詳細な手順書(施工要領書)を添付します。
コスト削減への貢献
- 手戻りの防止: 事前に詳細な計画を立てることで、現場での「行き当たりばったり」な作業を防ぎ、手戻りや工程の遅延といった最大のコスト増要因を排除します。
- 最適人員配置: 工程計画を明確にすることで、必要な時期に必要な人数の作業員を計画的に手配でき、人員の無駄をなくします。
2. 施工図:設計図を「作れる図面」にする
設計図は建物の完成形を示しますが、そのままでは現場で施工できません。設計図を元に、実際に工事ができるように詳細な情報を加えたものが施工図です。
なぜ施工図は重要か?
- 干渉のチェック: 配管、ダクト、電気配線などが、他の設備や建築の梁・柱とぶつからないか(干渉しないか)を3次元的に検討します。
- 製作・施工情報の具体化: 機器の正確な設置位置、配管の正確なルート、支持金物の詳細、スリーブの正確な位置などを決定します。
- 材料発注の根拠: 施工図が確定することで、必要な配管やダクトの長さ、部材の数量が正確に算出でき、材料発注の根拠となります。
管理手法:プロット図から総合図へ
- プロット図の作成: まずは自分の担当設備(空調、衛生、電気など)のルートや機器配置を、建築図や構造図の上にプロット(仮置き)します。
- 関係者との調整: 各設備の担当者が持ち寄ったプロット図を重ね合わせ、干渉する部分を調整します。この調整会議がプロジェクトの成否を分けると言っても過言ではありません。
- 総合図の完成: 全ての調整が完了したら、全設備のルートが描かれた「総合施工図」を完成させ、関係者全員で共有し、これに基づいて現場作業を進めます。
- 承認と版管理: 完成した施工図は、監督職員の承認を得てから使用します。修正があった場合は、必ず版数(リビジョン)を更新し、現場で古い図面が使われないように徹底管理します。
コスト削減への貢献
- 干渉による手戻り防止: 事前にPC上で干渉をチェックし調整することで、現場での配管のやり直しや、壁・床の再穿孔といった壊滅的な手戻りを防ぎます。
- 歩掛の向上: 施工図で正確なルートや位置が決まっていると、現場の作業員は迷いなく作業を進めることができ、作業効率(歩掛)が向上します。
- 材料ロスの削減: 正確な数量が算出できるため、余分な材料発注を減らし、材料ロスを最小限に抑えることができます。
まとめ
施工計画書と施工図は、工事の品質、安全、工程、そしてコストを支配する最重要ドキュメントです。これらの作成と管理を徹底することが、優秀な施工管理技術者への第一歩となります。