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【管理ポイントシリーズ05】分電盤の試験調整・試運転

皆様、こんにちは。ゼネコンで電気設備の監督業務に携わってきた筆者が数多くの電気設備工事に立ち会ってきました。

本記事では、私の経験に基づき、分電盤の試験調整・試運転を徹底的に解説します。安全確保、法令遵守、効率的な作業、そしてトラブルシューティングまで、現場で役立つ情報を提供します。

 

1. 分電盤試験の重要性と目的

分電盤は建物の心臓部です。電気の供給と安全な管理を担う重要な設備であり、適切な試験・調整・試運転は、安全な電力供給と建物の寿命を左右します。試験の目的は、設計通りの性能が確保されているか、安全基準を満たしているかを確認することです。不具合を早期に発見し、事故や故障を未然に防ぐことで、人身事故や経済的な損失を回避できます。

2. 試験・調整・試運転工程:ステップバイステップで解説

分電盤の試験、調整、試運転は、それぞれ独立した工程ですが、密接に関連しています。順を追って、それぞれの工程を詳しく見ていきましょう。

 (1) 試験工程:安全性を確認する重要なステップ

  試験工程では、分電盤の各部が設計通りに機能し、安全基準を満たしているかを

  確認します。主要な試験項目は以下の通りです。

  • 絶縁抵抗試験: 各回路の絶縁抵抗を測定し、漏電がないことを確認します。測定器を使用し、規定値を下回っていれば絶縁不良の可能性があります。これは感電事故防止に非常に重要です。
  • 接地抵抗試験: 接地抵抗値を測定し、安全基準(一般的に4Ω以下)を満たしているか確認します。接地不良は感電事故や機器故障につながるため、厳格な測定が必要です。
  • 負荷試験: 設計容量に近い負荷をかけて、動作を確認します。ブレーカーのトリップ動作や、電圧降下の確認などを行います。過負荷時の挙動を確認することで、安全装置の機能を検証します。
  • 保護継電器試験: 保護継電器(例えば、過電流継電器、地絡継電器)が正常に動作するか確認します。これは、異常時に適切な保護機能が働くことを確認する重要な試験です。動作試験と設定値確認を行います。
  • 開閉器動作試験: 開閉器(遮断器、ブレーカーなど)が正常に開閉できるか確認します。スムーズな開閉動作を確認し、接点不良などもチェックします。

 (2) 調整工程:最適な動作を実現する微調整

  試験工程で問題が見つかった場合、または設計値とのずれがある場合、

  調整工程が必要となります。

    • 電圧調整: 各回路の電圧を規定値(通常100Vまたは200V)に調整します。変圧器や電圧調整器を使用して、正確な電圧を確保します。
    • 保護リレー設定: 保護リレーの設定値を適切に設定します。感度や動作時間などを、機器の特性や安全基準に基づいて設定します。
    • 過電流保護装置設定: 過電流保護装置(ブレーカーなど)の設定値を適切に設定します。過電流時の遮断動作を確認し、機器の保護と安全性を確保します。
    • その他調整: 必要に応じて、電流バランス調整など、他の調整を行います。

 (3) 試運転工程:総合的な動作確認

  調整が完了したら、試運転を行い、分電盤全体が正常に動作するか確認します。

    • 試運転: 実際の負荷を接続して、分電盤全体をテストします。照明、コンセント、動力機器などを接続して、各回路の動作を確認します。
    • 動作確認: 各回路の動作を確認し、異常がないことを確認します。電圧、電流、動作時間などを測定し、記録します。
    • 記録: 試験・調整・試運転の結果を詳細に記録します。記録には、日付、時間、実施者、測定値、異常の有無などを記入します。写真や動画の記録も有効です。

3. 管理基準とポイント:安全と効率性を両立させるための指針

分電盤の試験、調整、試運転は、適切な管理基準とポイントを踏まえることが重要です。

 (1) 安全対策:万全の安全対策で事故を防止

  • 作業前点検、絶縁手袋着用、遮断確認、作業許可、作業手順書、複数人作業、安全帯着用などの安全対策を徹底します。(詳細は前回回答を参照)

 (2) 法令遵守:関連法規を遵守し、法的な問題を回避

  電気設備技術基準、労働安全衛生法、その他関連法規を遵守します。(詳細は前回  

  回答を参照)

 (3) 効率的な作業:作業時間短縮と無駄削減

  チェックリストの作成、作業手順の標準化、工具の選定、事前準備などの効率化を

  図ります。(詳細は前回回答を参照)

4. トラブルシューティング:よくある問題と解決策

絶縁抵抗値が低い、接地抵抗値が高い、ブレーカーがトリップする、保護リレーが誤動作するなどのトラブルとその解決策を説明します。(詳細は前回回答を参照)

5. 幹線接続部の増し締め確認とマーキング、サーモカメラによる温度管理

分電盤の安全・安定運用において、幹線接続部の状態は非常に重要です。緩みによる発熱は火災事故に直結するため、定期的な増し締め確認と、その記録管理が不可欠です。

  (1) 増し締め確認 

    • 目視確認: 接続部の緩み、損傷、異物の付着などを目視で確認します。
    • トルクレンチによる確認: トルクレンチを使用し、規定トルクで締め付けられているか確認します。接続部の種類やボルトサイズに応じた適切なトルク値を使用することが重要です。締め付けトルクは、機器の取扱説明書やメーカー指定値に従います。
    • マーキング: 増し締め後、マーキングペンなどで日付や担当者名を記載し、再確認時期を明確にします。これは、次回の点検時に効率的に確認できるよう、作業履歴を残すためです。

  (2) サーモカメラによる温度管理

   サーモカメラを使用することで、接続部付近の発熱を早期に発見できます。

   接続部の温度が高い場合は、緩みや接触不良の可能性が高いため、

   直ちに増し締めや点検が必要です。

  • 測定方法: サーモカメラを用いて、幹線接続部を含む分電盤全体の温度を測定します。特に接続部周辺の温度に注意し、周囲温度との差を確認します。
  • 許容温度: 機器の許容温度を超えている場合、直ちに原因を究明し、対応する必要があります。許容温度は、機器の取扱説明書やメーカー指定値を確認します。
  • 記録: 測定結果を記録し、温度変化の推移を把握します。記録には、日付、時間、測定箇所、温度値などを記入します。

6. 用意するチェックリスト例(改訂版)

(1) 試験工程チェックリスト

(2) 調整工程チェックリスト

(3) 試運転工程チェックリスト

上記のチェックリストに加え、以下を追加します。

(4) 幹線接続部チェックリスト

項目 確認内容 合格/不合格 備考
増し締め確認 トルクレンチによる増し締め確認   規定トルク:〇〇N・m(機器仕様書参照)
マーキング確認 増し締め日時、担当者名を確認    
サーモカメラ測定 接続部温度測定   許容温度:〇〇℃以下(機器仕様書参照)
外観検査 緩み、損傷、異物付着の有無    

7. まとめ:安全で効率的な分電盤運用を目指して

本記事では、分電盤の試験、調整、試運転に加え、幹線接続部の増し締め確認、マーキング、サーモカメラによる温度管理について解説しました。これらの情報を参考に、安全で効率的な作業を行い、建物全体の安全と安定した電力供給に貢献してください。この記事が、皆様の業務に少しでもお役に立てれば幸いです。 ご不明な点やご質問等ございましたら、お気軽にコメントください。